第322話「今までの人生で一番長い夏」


夏休みが始まって、学校に行く必要がなくなった。


去年までなら、昼間まで寝て、深夜までゲーム。そして寝る。


それの繰り返しで、何の生産性もない日々を送っていた。


が、今年はワケが違う。



「1日の勉強時間?」


「はい、今は1日120分をめどにしてますけど」



1日120分というのは、勉強時間の目標。これは岩船先生の指示だ。


ここまで効率よく勉強が出来ているのは、彼女のおかげ。


そんな岩船先生に、ちょっと相談。


そのために、今日は岩船先生のお宅にお邪魔している。



「なるほど。夏休みだから、1日120分以上勉強ができると」


「ま、まぁ・・・やりたくはないですけど」



やりたくはないが、やらなくちゃいけないことだ。


最近は勉強を習慣的にやっているおかげか、割かし勉強はできるようになっていると実感している。


学校の授業にもついていけてるし、テストの結果にも表れている。


とはいえ、目指す大学の偏差値は55。


決して高くない偏差値だが、バカな俺にはそれでも難易度が高い。


このままのペースでは、不安が残る。



「そうだな・・・学校と同じ要領でやるのが良いんじゃないか?」



と、岩船先生。


言っていることが分からなかったが、詳しく説明してくれた。


学校の授業は1コマ50分。それが1日に5か6コマある。


1コマが終わると、10分の休憩。昼どきには長めの休憩がある。


それになぞらえて、夏休み中も勉強をすればよいという提案だ。



「なるほど・・・」


「家じゃ集中できないなら、学校でやるってのも手だぞ」


「夏休みですよね?」


「部室があるじゃないか」


「あの、岩船先生はもう学校の関係者じゃないんですから・・・」


「夕凪先生に頼めば、部室を使わせてくれるんじゃないか?」


「うーん」


「私から頼んでみよう」


「あ、じゃあお願いします」



部室にはクーラーがある。


俺の部屋にはそれがない。


部室で勉強をする最大のメリットはそこだ。


ということで、俺にとっては、今までの人生で一番長い夏が始まりました。


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