第321話「海外からのお手紙」


「先輩、なんか手紙届いてますよ」



そう言いながら、部屋に入ってくる蒼。


彼女が我が家に居候して、もう半年以上。


当たり前のように家中を闊歩し、当たり前のように家族と打ち解けている。


今も、何の用だか知らないが、部屋から出ていって、帰ってきたらその一言。



「手紙?」


「海外から? 先輩って、海外に知り合いいるんですか?」


「海外・・・」



うーん・・・思い当たる節はある。


渡された手紙。


横向きの封筒は、とても日本人が書いたとは思えない筆記体の名前。



「うーん・・・」


「先輩、これ読めます?」


「セシル・ド・モンクティエとか?」


「何で分かるんですか!?」



もちろん読めてはいない。


でも、海外の知り合いって言ったら、セシルしかいない。


消去法的に、セシルからの手紙ということになる。


そうじゃなかったら、ただの不審物。


セシルは俺が高校1年生のとき、留学生として天文部に所属していた女の子。


9月に突然やってきて、3月には帰国してしまった。


そのため、一つ年下の蒼とは面識がない。


ー※ー


ハサミで封筒を切り、中身を確認する。


中身は普通に日本語で書かれていた。


英語で書かれていたら翻訳しなきゃいけなかったけど、そこは配慮してくれていたようだ。



“友彦へ”


セシルです。


私はいま、アイルランドのダブリンで暮らしています。


今度の休みに、日本に行くことになりました。


家族と行く観光旅行で、とても楽しみです。


そのうち、1日だけ自由に行動できる日があるので、久しぶりに友彦に会いに行こうと思います。


では、その日を楽しみにしています!




手紙にはそう書かれていた。



「アイルランドの人なんですね」



と、蒼。



「うーん。多分違うと思うけど」


「そうなんですか?」



たしかセシルって、フランスから来た留学生だったはず。


話によれば、色んな国で暮らしたことがあるとか・・・。



「生まれはイタリアだった気が・・・」


「なら、イタリア人?」


「でも、イギリスでも暮らしたことがあるとか」


「イギリス人?」


「ドイツでも・・・」


「ドイツ人?」


「スイスやフランスでも」


「どこの国の人なの・・・?」


「俺らみたいに、どっかの国の人って認識じゃないんだろうね」



そして今は、アイルランドですか。


相変わらず国境を超えた引っ越しが多くてすごいな。


ちょっと憧れたりもする。


そんなセシルが、久しぶりに日本に来るようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る