第318話「天文部の大切な仲間」


「明坂大、私も目指してるんですよ」



そう言うのは、海老名歩夢。


ファミレスという空間で、なぜか二人で食事をしている。


ちなみに明坂大は、現在俺が目指している大学だ。



「あれ、海老名さんって、国立目指してるんじゃないの?」



以前に、そんなことを言っていた。


国立大学を目指していると。


だけど、明坂大は私立大だ。


今の発言と、以前の発言の内容が噛み合わないが・・・。



「滑り止めですよ」


「あぁ・・・なるほど」



滑り止めですか・・・。


滑り止めで偏差値55の大学受けるんですね。


海老名って人は、一体どんな学力保持者なんですかね。



「また、一緒になるかもですね」


「2年も離れてるけどな」


「大学は4年ですよ?」


「だからなんだよ」


「高校だと1年しか一緒じゃないですけど、大学だと2年も一緒に居られるんです!」


「俺と君って、そんなに親しい関係だったっけ?」


「いやだなぁ、天文部の大切な仲間じゃないですか」


「お、おう」



海老名とこんなに会話をしたのも、今日が初めてだ。


つまり、普段はその程度の仲ということ。


まぁ当たり前のことかもしれない。


学年も違うし、性別も違う。


ましてや、俺が対人関係が苦手ときた。


何と言うか、海老名歩夢は俺からしたら、距離感を掴みにくい相手だ。



「先輩、まだ何か食べますか?」


「いや、さすがに」


「そうですか。ここは私が奢りますから、好きなもの食べてください」


「いや、海老名さんに奢らせるわけには・・・」



しれっと、しかも当然かのように言われたが、海老名は後輩の女子。


そんな人に奢られるのは、なんか負けた気分だ。



「そんなこと言わないで下さい、付き合わせてるのはこっちなんですから」


「いや、でも」


「先輩、バイトしてますか?」


「いや・・・」


「私はこの前から始めて、つい最近お給料が入ったばかりなんです。だから心配しないで下さい」



得意げに語るが、そういう話ではない気がする。


とはいえ、手持ちのお金がないのは事実。


いや、正確に言えば、自分の分は払える。


ただ、自分の分を払うと財布がすっからかんになる。



「悪いよ」


「大丈夫です!」



そう言って譲らないので、ここはごちそうになることにしました。



「払わせちゃってごめんな」



ファミレスを出て、一応そんなことを言っておく。


なんか申し訳ない気持ちになっているのは事実であり、その気持ちを紛らわすための謝罪だ。



「大丈夫ですよ。奢るって言ったのは私ですから」


「今度、なにかお返しするから」


「ほんとですか? 嬉しいですね、もう次のデートの約束しちゃった☆」



そういうつもりではないんですけどね。


この人、ほんと距離がつかみにくい。


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