第316話「女の子からのお誘い」


「でも先輩、その彼女って、どんな人なんですか?」



海老名歩夢にそんな質問をされた。


歩夢は同じ天文部で、1年生の女の子。


恋人の名前を隠す気はないが、その名は同じ天文部の三永瀬蒼。


正直に答えて、部活での雰囲気が変わることは避けたい。



「まぁ、秘密ということで」



だから、これが最善の策だと、自分の中で思い至った。



「えぇ~? 秘密なんですか?」



弄ぶように、煽ってくる。



「秘密です」


「それは、いないですって言ってるようなものですよね?」


「なら、それでいいです」


「じゃあやっぱり、行けますよね? これから二人で」


「それは無理。君は暇なのか?」


「君って言い方は気に食わないですね。暇なのはそうですよ」


「じゃあ、海老名さん?」


「歩夢ちゃんって呼んでください」


「ちゃん付けはちょっと」


「いいじゃないですか。恥ずかしい事じゃないですよ」


「恥ずかしいわ!」



男性を呼称する際に、「くん」を付けるのはそこまで恥ずかしいことではない。


むしろ、社会の中でもそういう呼び方をする場面は想像できる。


だけど、「ちゃん」は話が変わってくる。


小学生ぐらいまでなら分かるが、それ以上の年齢層で使っている人は滅多にいない。


使っている人がいるとするなら、恋人や身内などの親しい人に対してか、あるいはただのキモい奴。



「呼び方はなんでもいいわ。先輩、私お腹空いたんですよ」


「家に帰って夕飯でも食べればいいんじゃないか?」


「先輩、絶対彼女いないですよね?」


「いや、いるけど」


「そんな素っ気ないと、彼女できませんよ。ましてや、プライドまで高いときたら・・・もう救いようがないですね」


「そんなこと言われても・・・」


「とにかく、一緒にご飯食べに行きましょ」


「えぇ・・・」


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