第315話「帰り道の出会い頭」
岩船先生の家にお邪魔して、勉強の仕方などを教わった。
新しい勉強時間の目標は、最低60分、目標90分に増やされた。
岩船先生曰く、目標の1時間が達成できたのなら、次のステップに移行できる。とのこと。
それがプラス30分ということなのだろう。
帰ったら、早速勉強をしなくては・・・。
「あれ? 村上先輩じゃないですか」
少し速足で帰宅していると、思わぬ人に声を掛けられる。
「えっと・・・どうも」
出会ったのは、閑静な住宅街。
辺りは暗くなっているが、街灯で少しばかり顔と表情が見える。
海老名歩夢だ。
天文部に入部してきた、ウルフカットの後輩。
「こんなところで会うなんて、奇遇ですね」
「そうですね」
「どこかに行ってたんですか?」
「まぁ。勉強を教わりに」
「塾ですか?」
「違う・・・かな」
「そうですか。受験生は大変そうですね」
「まぁ、そうだね」
「お疲れなら、少し羽を伸ばしませんか? 先輩」
海老名歩夢。この人と会話をすると、妙に緊張する。
それは、彼女とまだ親しくないからなのか・・・いや、それはちょっと違う気がする。
何と言うか、彼女の独特の雰囲気が、俺は苦手なのだろう。
言葉では説明しがたい、海老名歩夢という女の子の雰囲気。
無表情ではないが、決して豊かではない、形容しがたい微妙な表情。
顔色も分からなければ、何を考えてるのかも分からない。
とにかくよく分からない人。
「帰って勉強しなきゃいけないから」
「ダメですよ、先輩」
そう言うと、そっとこちらに近づく歩夢。
彼女は俺より少し背が高い。
これは、彼女の身長が普通より少しばかり高いというのもあるが、俺の身長が低すぎるという側面もある。
彼女が真正面に来ると、少しだけ見下ろすような視線。
何となくの悔しさがある。
だが、それはこの状況を前にすると些細なこと。
彼女の左手が、力を抜いてぶら下がっていた俺の腕を掴む。
「女の子の誘いを断っちゃ」
耳元に彼女の口がそっと近づき、吐息と共に甘く、でも少し低い声で言われる。
「あの・・・」
「なんですか? 先輩」
「何がしたいんですか?」
「男の子なら、分かるよね?」
「そう言うのは、ちょっと」
「どうして? なら、抵抗してさっさと逃げればいいんじゃない?」
そんなえっちな漫画みたいなこと言われても・・・。
何と言うか、本気で嫌がって抵抗すればその場を振り切ることはできるのだろう。
しかし、プライドのような感情が、その行動をさせてくれない。
「海老名さん・・・おれ、彼女いるから」
「あ、そうなんですか?」
彼女がいる。その一言を聞くと、刹那に掴まれていた腕を離してくれた。
「なーんだ。でも先輩、その彼女って、どんな人なんですか?」
「え・・・いや、まぁ」
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