第310話「お高い参考書」


バイトをしていない高校生が持っているお金はごくわずか。


月に万もいかない額でやりくりをしている。


そんな俺にとって、目の前にある参考書の山は恐怖でしかない。



「これ、全部でいくらなんですか・・・」


「3万ぐらいか?」



と、隣にいる岩船先生がこたえる。


今日は彼女と、書店に来ている。


受験勉強に必要な参考書を買いに来たのだ。



「村上は基礎が出来てないから、この参考書も必要だな」



と、本棚からどんどん分厚い参考書を手にする岩船先生。


それをそのまま、俺の方へ渡してくる。


すでに数冊の参考書で、俺の腕は悲鳴を上げるほどの重量だ。



「当たり前ですけど、これ全部勉強するんですよね?」


「当たり前だ。一回じゃないぞ、繰り返しだ」


「ひ、ひえ・・・」



勉強が好きという人はいないだろうが、苦手教科と得意教科で印象はだいぶ変わる。


いま積み重なれてる参考書たちは、俺が苦手としているものだらけ。



「うーむ・・・」



全部で10冊ぐらいだろうか。


自分の腕に積み上げられた本たちを見て、一体どのくらいの額になるのかびくびくしている。


相当な額になると岩船先生に言われたので、家にあった貯金箱をひっくり返してあるだけ持ってきた。


それでも数万円。バイトをしていない高校生にしてはよく貯めた方だと思う。


恐る恐ると、目の前にある10冊ほどの参考書。


裏面を見ると、当たり前のように5000円を超えてくるものだらけ。


そろそろ手持ちのお金じゃ払えなくなる。



「あの、岩船先生」


「どうした?」


「その・・・お金が」


「お金がどうした?」


「手持ち、そんなになくて」


「あぁ。それなら問題ない。私が出してやるよ」


「え、ほんとですか?」


「まぁこのくらいはな」



か、かっけぇ・・・。


奢る人って、どうしてこんなにもカッコよく見えてしまうのだろうか。



「ありがとうございます」



参考書の代金、4万数千円。


書店で見たことのない数字が出てきました。


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