第306話「前へ進む第一歩」


理系の大学を目指すことが確定した。


とはいえ、理系に得意科目があった記憶はない。


むしろ、苦手科目しかないだろう。


しかも、今の学力だと、目標とする大学の最低ラインよりもはるかに下にいる。



「どうしようかと・・・」



何から何まで、どうすればいいのかまるで分からない。


という相談を、今日はしに来た。



「それで私のところに来たわけか」



無機質な声で返事をするその人こそ、今日から頼りにさせてもらう岩船先生。


彼女は現在、絶賛ニート満喫中ということで、事前に連絡をして先生の家にお邪魔させてもらっている。



「勉強とかも、分からないことだらけなので」


「それはいいのだが、村上、お前どれだけの難易度なのか知っているか?」


「いやまぁ、高そうだなぁって」


「はぁ・・・」



呆れたため息。


何となく難易度が高いってのは、想像することができる。


だけど、具体的にどれだけ高いのかは調べていない。



「ちなみに、どこの大学行くんだ?」


「明坂(あけさか)大です。一番近いので・・・」


「そこだと偏差値55ぐらいか?」



明坂大学は、自宅から一番近い、地学系を学ぶことができる私立大学。


理学部の偏差値が55・・・バカ高いわけではないが、決して低くはない数値。



「行けそうですかね」


「それは村上がどれだけ勉強するか、だ。努力すれば絶対に入れるさ」


「そうですかね」


「勉強のことなら、教えるぐらいはできるからな」


「頼りにしてます」


「頑張れよ」



俺の成績からすれば、大学進学ならせいぜいFランが無難なところだ。


偏差値50を超えるような大学を目指すなんて、無謀にもほどがある。


普通ならあざ笑うかのように否定の言葉が返されるだろう。


だけど岩船先生は、励ましの言葉をくれた。


否定をしなかった。


この人は、他の人とは違って頼りがいがある人だ。


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