第305話「長く険しい道のり」


「訊かせてもらおうか、蒼のやりたいこと」



決め台詞のような言葉。


蒼のことを分かってきた自分に、ちょっと浮かれているだけなのかもしれない。


そんな俺の言葉に、蒼は申し訳なさそうな低めの姿勢で話す。



「うーん・・・まぁこれがやりたいってほどでもないんだけど、何となく天文学の勉強がしたいかなぁって」



思ったよりふわっとしていた。


何となく察しがついていたが、やはり理系の大学。



「天文学ね」


「先輩、興味ないでしょ? だから私が合わせるの」


「いや、同じ大学行く必要はないでしょ」


「それは無理」



そこまでして同じ大学に行きたい理由は何なんですかね。


こっちからしたら理解しがたいが、蒼にとっては譲れない条件らしい。


だけどこちらとしては、蒼は行くべき大学に行ってほしい。


しっかりと、将来につながる大学へ・・・。


これを両立させる手段は、一つしかない。



「分かった。俺が頑張るよ」


「頑張るって?」


「天文学だろ? 行けそうな大学探すから、そこに入学する」


「正気?」


「大真面目だよ」


「だって先輩、そもそも理系じゃないですよね? 難易度高いですよ?」


「専攻は関係ないよ。難易度高いのも承知している」



蒼はどうしても俺と同じ大学に進学したい。


だけど、俺に合わせて蒼がやりたいことを我慢するのはこっちが譲れない。


これを両立させる手段は、もうこれしかないだろう。


幸い俺には、大学で勉強したいことがない。


無論、行きたい大学がある訳でもない。


どこに行こうと、大卒が取れれば問題はない。



「先輩が無理する必要はないですよ?」


「無理じゃないよ。頑張るから」


「でもほら、先輩天文学とか興味ないじゃないですか」


「あるよ。天文部に入って、ちょっとは面白さとか感じてきてるし」



ちなみにそれは事実だ。


部活に入る前とは、明らかに星に対しての興味度が違う。


蒼の勉強したいことが、例えば医学とか化学とかなら話は変わっていた。


だけど、天文学なら俺にもできそうな気がする。


興味関心とか、好きって気持ちは原動力になるはずだから。



「先輩、本気なんですね・・・」


「うん」


「分かりました・・・険しい道にはなると思うけど」


「そうだね。よろしく」


「はい!」


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