第301話「温かい家庭」


「なんかごめんな」



と、帰り道に蒼に伝える。



「なにが?」



表情ひとつ変えずに・・・いや、目線すらも真っすぐ前を向いたまま、彼女は無頓着な返事をする。


その仕草は、不機嫌そのもの。



「部活のとき、親の話を出しちゃって」


「別に」


「ちょっと気になったから・・・つい」


「いいよ別に。でも、何が気になったの?」


「いやまぁ、色々と」



居心地が悪いと本人は言っている、三永瀬家の家庭環境。


家庭環境とは親の人間性に依存するところがあるので、蒼が家に居づらいその真意を探りたかった。


それと同時に、ここまで放任主義な親に興味が湧いてくる。



「なんかさ、先輩の親を見てると、めちゃくちゃ嫉妬しちゃう」


「嫉妬?」


「うん。温かい家庭って、いいなぁって」


「うちは特別温かいとは思えないけど」



かと言って、冷たいとも思わない。


他人の家庭環境と比較をしたことがないから、そこら辺はよく分からない。


うちは親父は仕事で家にいることは少ないし、逆に母親は専業主婦でほとんど家にいる。


現代社会に取り残されるような、昔ながらの家庭スタイル。


まぁ人間性で言えば、母親は普通で、親父が頑固って感じ。



「このまま一生、先輩の家で暮らしたいよ」


「そうなりそうな勢いだけどな」



もう何ヶ月居候してるんですかね。


蒼が家にいることが、すっかり日常の光景として溶け込んでいる。


もはや抵抗も違和感も、特に感じなくなってきている。



「それは愛のプロポーズということでいいんですか?」


「ちがいますかね」


「なーんだ」


「高校生の身分で何を期待してるんだ」


「じゃ、将来に期待ってことでいいんですね?」


「その時はその時に考える」


「ヘタレ」



蒼と一緒にいる時間は、もうそれなりに長い。


だけど、未だに自分に自信が持てていない。


いつかは別れるんじゃないかって、そう思っている自分がいる。


だから、変なことは言えない。


無責任なことは言えない。


いつまでも先送りにしてしまうのだ。


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