第300話「蒼の将来の夢」


「なら、三永瀬先輩は将来なりたいこととかないんですか?」



と、後輩の海老名から質問。



「将来・・・ねぇ」


「何もない感じですか?」


「まぁ・・・」



意外のような、でもそうでもないような。


蒼は特にやりたいことがないらしい。



「意外ですね」


「そう?」


「いつも本とか読んでますし、何か明確な目標がある感じがします」



そんな発言をする海老名は、最近天文部に入部したばかりの1年生。


なのでそう見えてもおかしくはないのだろうが、蒼は普段読書をしない。


彼女は、部室では空気になることに徹している。


天文部でその部名にふさわしい話題になった時だけ、存在感をあらわにして話に入ってくる。


だが、それ以外は空気同然であり存在感がない。そのため、蒼からしてみれば特にやることがない。


その暇つぶしとして読書・・・という選択肢をとっているだけなのだろう。



「何もないよ、私は」


「そうなんですね。すごい頭良さそうだし、てっきりすごいこと考えてる人なんだと思ってました」


「頭良くないよ。あと、何も考えてない」


「自分じゃ頭良いなんて言いませんよね」


「私の場合はほんとに頭悪いから」


「そうですか」


「海老名さんみたいに、博士号とって、公務員になって・・・みたいな、壮大な夢はないから」


「夢があると学力は別の話だと思います」


「夢やこだわりがないのなら、勉強する理由はそんなにないよ」


「そうなんですか?」


「そうだと思うよ。分からないけど、うちの親を見てる感じはそう」


「蒼の親って、どんな人なんだ?」



と、これは俺の発言。


最近はずっと俺の家に居候していて、家には全然・・・いや、全く帰っていない。


そんな状態を容認している蒼の親には、前から興味があった。



「別に、クソみたいな親よ」



嫌そうな顔をしながら答えてくれた。


蒼の家庭環境は、前に少しだけ聞いている。


親について詳しいことは知らないが、これ以上親に関することを深掘りすると、不機嫌になり場の空気が険悪になるのは目に見えている。



「そうか・・・」



だから、その一言だけを口にして、この話題を終わらせた。


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