第299話「蒼のやりたいこと」


「天文学で言えば、蒼ちゃんも詳しいわよね」



部室では空気になることに徹している蒼だが、夕凪先生の一言で話の火種がうつる。


海老名の目標は、天文台職員になること。


蒼もそれと似たような天文学系には興味が高いと思うが、実際はどうなのだろうか。



「興味はあるっちゃあるけど・・・」


「その言い方だと、別に・・・って感じか?」



と、これは俺の一言。


蒼は俺が入学した大学に入学すると言っている。


大学に進学しても一緒の時間を多く作れるから、それは良い提案だと思う。


だけど、蒼には好きなことをしてほしいという気持ちもある。


蒼の学びたいところ、行きたいところに進んでほしい。


俺を理由に、夢ややりたいことを諦めてほしくないから・・・。



「うーん・・・趣味は趣味だからなぁ」


「でも、その趣味を仕事にできたら楽しいと思いませんか?」



と、天文台職員を目指す海老名の発言。



「それもあるかもだけど、楽しいことは楽しいままでいたいから」



そんな返しをする蒼。


趣味と仕事は別モノにしたいってのが蒼の考えなのだろう。



「仕事だと、楽しい事ばかりじゃないものね」



夕凪先生が付け加える。



「それで好きだったことが嫌いになるのはイヤだから」



と、蒼。


趣味なら自分の世界で楽しめる。


自分の好きなことを、好きなように楽しめる。


だけど、それが仕事になれば話が変わってくる。


いくら自分の好きなことでも、嫌になることだってあるだろう。


それで、今まで好きだったものが嫌いになるのは、最も避けなければならないこと。


嫌いなことを仕事にするのは、どう考えても辛いことだしな。



「そうなんですね・・・なら、三永瀬先輩は将来なりたいこととかないんですか?」



三永瀬に先輩という言葉が違和感しか感じない。


身長で言えば、この中では一番小さいのは蒼だ。


でも、年齢的には今の発言をした海老名が一番下。


そこに新鮮味しか感じない。

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