第297話「浮かばぬビジョン」


何となくで今まで生きてきた。


小学校から中学校。学区内の指定された学校に通った。


高校も、家から一番近いところが自分の学力で行けそうなところだったから入学した。


将来の夢がある人は、すごいと思う。


やりたいことがある人は、すごいと思う。



「はぁ・・・」



部室にいると、特にやることがない。


やることがない故に、目の前に迫っている受験という文字に焦りを感じてしまう。


とはいえ、焦っても何のビジョンも浮かんでこない。


そんな自分に、つくづくうんざりする。



「受験生は大変そうね。勉強はどう?」



と、夕凪先生からのお言葉。



「勉強してないです。行きたいところ決まってないので」


「あらあら」


「村上先輩って、頭良いんですか?」



そんな質問をしてくるのは、ウルフカットの海老名さん。



「全然」


「ってことは、難易度の低い私立大とかですか?」


「そこすらも決まってない」


「理系だと国立でも私立でも難易度変わらないって聞きますけど」



そんなことはないと思うけど。


というか、なんで俺が理系って話になってるんでしょうか。



「おれ、理系じゃないよ」


「え、違うんですか?」


「違うよ」


「そうなんですか・・・天文部だし、てっきり理系なのかと」


「部活をそんなガチな想いで入る人は、そう多くないと思うよ」


「そうなんですね」



天文部にいるから理系ってのはちょっと違う気がする。



「海老名さんはその雰囲気だと、がっつり理系なの?」


「はい。私は大学でも天文学を学びたいと思ってるので」



やりたいことがある人はすごいと思う。


そして同時に、目標が簡単に設定できて羨ましく思う。



「はぁ・・・」



ため息しか出ない。


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