第292話「人は自分にないものを欲しがる」


海老名歩夢。彼女が天文部に入部することになってしまった。


顧問の夕凪先生、蒼、匠馬、そして俺。4人だった部室の空間には、これからまた1人加わる。



「なんか、嫌な感じ」



下校中、蒼から唐突に放たれた一言。



「なに?」


「あの子」


「海老名さんのこと?」


「うん」


「どうして?」


「先輩はさ、あの子可愛いと思う?」


「えーっと・・・」



可愛いかと問われても・・・。


どう答えればいいのだろうか。



「私は可愛いと思う。身長も高いし髪もきれいだし、羨ましいよ」


「あ、はい」



そう言う感じの妬みね。



「先輩は、ウルフカット好きですか?」


「海老名さんのやつ?」


「うん」


「良いと思うよ」



髪型に好きも嫌いもない。


だから当たり障りのない回答をしておく。



「うーん。先輩の反応は微妙か」



蒼さん、最近俺の適当な反応を分析できるようになってきている。


今の反応は微妙な反応だったらしい。


まぁ実際に、当たり障りのない回答をしたわけであり、言い換えれば微妙という言葉は当てはまる。



「わたしさ、先輩の好みとか分からなくて。だから、どんな格好したらいいのかなって。ちょっと悩み」



その悩みを本人に直接言ってくるのが蒼の良いところ。


とはいえ、蒼にこんな格好をして欲しいとかの要望はない。



「好きな格好をすればいいんじゃない?」



なので、そう言うしかない。



「どうせなら先輩に喜んでほしい」


「うーん。なんでも良いと思うよ。蒼なら、何でも可愛いと思うし」


「そ、そう?」



なんかよく分からないが、蒼的にはそれで納得がいったようでなにより。


実際のところは、ファッションなんてよく分からないから何でもいいって感じですけど。


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