第293話「無味無臭の自己紹介」


天文部の活動日。この日は、俺と蒼に、歩夢がそろっていた。



「じゃあ始めましょうか」



顧問の夕凪先生がそう言う。


そうは言っても、やることがあるわけではない。



「なにするんですか?」



俺がそう問いかける。



「何かある?」



と、天然そうな反応をする夕凪先生。


それを黙って見守る蒼。



「えっと・・・何かやりたいことでもありますか? 海老名さん」



やることがないということで、そういう質問をする。


もはや天文部の恒例になりつつある。


新入部員にやることを提案させる。


セシルでも蒼でもやった気がする。



「わたしですか? よく分からないですけど」



まぁそう言う反応になりますよね。


これはセシルでも蒼でも同じ回答だ。



「そもそも海老名さん、天文学とか興味あるの?」



と、これは蒼の質問。


今日の蒼は、どこか気だるそうな雰囲気がある。



「星とか興味ありますよ。わたし、元々は田舎に住んでたので。実家から星がよく見えるんですよ」


「眺めてたの?」


「はい。星の名前とかも、有名なのは知ってますよ。北極星とか」



それは俺でも知ってるかな。


ともかく、蒼や岩船先生のような天文バカではないようだ。



「ところでさ。先輩方・・・ですよね? 自己紹介とか」


「あ、あぁ・・・」



そう言えば、してませんでしたね。



「えっと、村上友彦です。3年です」


「三永瀬蒼。2年です」


「あ、はい。海老名歩夢です」



なんというか、簡素な自己紹介。


それ以外に何を言えばいいのか分からなかった。


どこか呆気にとられたような歩夢が、続けて名前だけ口にする。



「そんな簡単な自己紹介でいいの?」



と、夕凪先生。



「まぁ、それしかないですよね」



そう俺が言うと、蒼も納得するように軽くうなづく。



「そうかしら。天文部らしく、好きな星とかどう?」


「特になし」←蒼


「特になし」←友彦


「あの先生、もういいですよ・・・私も特にないんで」



後輩に気を遣わせて、自己紹介は終わりました。


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