第288話「落ち着くのは我が家」


家に帰る。自分の部屋に入る。


本来なら、ひとりで行うこの動作だが、蒼がセットで付いてくる。


この光景も、当たり前になってしまった。


ほぼ同棲のこの状態は、いつまで続くのだろうか。



「はぁ、やっぱ落ち着く」



そんな蒼の言葉には、同感できる。


しかし、ここは俺の家であり俺の部屋だ。


蒼からしてみれば・・・。



「一応、人の家だろ」



ということになる。



「もう私の家みたいなものでしょ?」



蒼がこの家に居候し始めて、何だかんだで2ヶ月以上。


最初は春休みだけという話だったが、もうゴールデンウイーク。


こんな長期間、家に帰ってない蒼を許す蒼の親は何なんだろうか。


まぁでも、こんな長期間、居候させてあげてる俺の親にも同じことは言える。



「でも、先輩には感謝しています」



と、唐突な蒼の言葉。


あまりにも唐突なもので、返答することもできない。



「春休みが始まってから、私はずっと先輩の部屋にいます。先輩からしたら、プライベートな空間なんてほとんどないのに、いつも優しくしてくれてるのがおかしいぐらいに怖くて」


「プライベートな空間がないと、優しくできないの?」


「普通の人はそうです。人との関係って、近すぎても良くないから」



そういうものなのだろうか。


この2か月間。蒼に対してイライラすることはもちろんあった。


ムカついて、キレてしまいそうになったこともあった。


元々俺はひとりが好きな人間だ。プライベートな空間がなくなることは、確かに嫌だった。



「まぁでも、怒るって体力使うからな・・・」



と、これは後付けの理由。


どうして俺は、蒼に対して怒りをぶつけてこなかったのだろうか。


その答えは単純なのかもしれない。



「先輩は優しい人なんですね」


「違うと思うよ」


「どうして?」


「多分純粋に、蒼のことを大切にしたいと思っていたから・・・」


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