第273話「それぞれの楽しみ方」


夜になり、辺りは街灯もなく暗闇に。


この別荘には、2階部分があるという。


そこからベランダへ出ることができるようで、今はそのベランダへきている。


木材を基調としているこの建物は、ベランダも例外ではなく、全体的に木材が使われている。


屋根のない開放的な4畳ほどの空間には、木製のデッキチェアが二つほど。



「天文部なんですから。星を観ましょう!」



そう言う蒼が先導して、デッキチェアに座る。


このチェアは、背もたれに沿ってちゃんと座るだけで、目線が空の方を向く。


だから、天体観測にはちょうどいい。



「綺麗だな」


「先輩、あの白い星、見えますか?」


「えっと、あの明るいの?」


「そうです。あれがスピカですよ」


「なるほど・・・」



スピカは天文に興味のない俺でも耳にしたことのある星だ。


白く明るいその姿は、麦の穂という意味があるんだとか。



「そこから上の方に向かって、あそこにあるスピカより明るい星」



スピカから目線を上げると、そこには確かに明るい星があった。


肉眼でもはっきり分かるほどの明るい星。



「あれがアークトゥルスって星です。街中でも観られるほど明るい星です」


「たしかに、明るい」


「そこから北斗七星までつなげれば、春の大曲線です」


「なるほど」



北斗七星は・・・どこなんだ?


春の大曲線と言っているので、アークトゥルスから上方向に曲線上にあるのだろうが・・・。


天体観測をしていると毎回思うことだが、他の星々も無数に観えるため、そこから観たい星を見つけるのが大変。


北斗七星。名前だけは聞いたことがある。


とはいえ、見つけられるかは別の話だ。



「やっぱ星を観てるときが一番落ち着きます」



蒼がそう言う。彼女は正真正銘の天文好きだ。


俺とは次元が違う。


彼女はそうやって、色んな星を見つけて天体観測を楽しんでいる。


でも俺は、あれがどんな星なのか、そういうことは分からない。


分からないけど、こうやってボーっと星を眺めているだけでも、気持ちが癒されるし、何より楽しめる。


考え方は違えど、楽しめてるのならそれでいいと思う。



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