第271話「疑心暗鬼のジレンマ」


「蒼が本当に俺のことを好きなのか、まだ疑っている」



俺のそんな言葉を、蒼はずっと気にしてくれていたようだ。



「先輩は、私の想いが嘘だと思ってるの?」


「いやまぁ、なんというか・・・俺の家にいる口実に使ってるんじゃないかって」


「なんで?」


「だってほら、自分の家にいるのは嫌だって、蒼が言ってたから」



蒼の家庭はひどい状況らしい。具体的に何がひどいのかは知らないが、蒼としては居づらい環境だそう。


だから、春休みの間だけでも・・・ということで、俺の家で寝泊まりしている。



「好きな人だから、頼ってるだけだよ」



蒼はそう言う。


だけど、俺のことを好きというのが、どうやっても理解できない。


家に寝泊まりする口実として、恋人になったのではないか。好きと言っているだけなのではないか。


いつの日か、匠馬に言われた、そんな思考が働いてしまう。



「先輩は私のこと、好きじゃないかもだけど、私の先輩に対する想いは本物だよ」


「うん・・・信じたいんだけど、どうしても」


「どうして?」


「多分、自己評価が低すぎるから・・・かな」


「自分のせいにしないでよ」


「だってさ、見た目も性格も良いところがある訳じゃないし、趣味だって戦争のゲームして発狂してるだけだし、普通に人から好かれる理由が分からなくて」



自分の評価が低いってのもそうだが、匠馬との会話の影響もデカいのかもしれない。


蒼はヤンキーグルとの縁を切ってから居場所がない。


クラスでも、家でも。


だから、自分の居場所を求めた。


自分を必要としている人を求めた。


そこで、ちょうど良かったのが俺だった。


とにかくチョロそうな人間。多分騙せる。みたいな・・・。



「やめてよ・・・先輩」


「ごめん。なんか、よくないよな。こういうの」


「ううん。だけど、信じてくれなかったのは悲しい」



そう言った蒼からは、ポタポタと涙が零れていた。


まさか泣くとは思わなかったから、ちょっと動揺・・・。


でも、その涙さえ、本気でショックを受けている涙なのか疑っている俺。


ここまでくると、自分が情けなくなる。


蒼のことを信じられないのが、情けなく感じてくる。


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