第270話「悩みは相手にも存在する」


一人だと億劫でまずやる気にならない掃除だが、相手がいると自然とやらなくちゃいけないって気持ちになる。


そして、話し相手という面でも退屈はしない。



「ふぅ、だいぶ綺麗になったね」



と、蒼は満足そう。


大抵の掃除道具が別荘に備わっているから、掃除は楽ちん。


あとは窓を開けっぱなしにして、ある程度換気をすればいい感じだろう。



「それで蒼、なんでまたここに?」


「と、いうと?」


「いや、黙って俺をこんなところに連れてくるってことは、言えない事情でもあったのかなぁって」


「先輩に黙ってたのは、単純に断られそうだったから」


「うーん・・・正直に言っても断らなかったと思うけど」



別に出かけることは嫌いじゃないし、この別荘は年末年始に来たことがある。


どんな場所か想像できるわけだし、今は春休みだから時間もある。


特に断る理由が見つからないが・・・。



「だって先輩、最近わたしと距離置こうとしてたから」


「距離・・・?」


「避けられてるというか、なんか気に障ることしたのかなぁって」



なるほど・・・そういうことか。


それに関しては心当たりがある。


距離を置いていたわけではないが、そう見えていたのかもしれない。



「別に、気に障るようなことはしてないよ」



ただ、端的にそれだけを蒼に伝えておく。


それは紛れもない事実だから。



「なら良いんだけど」



拭いきれない不安がありそうな、そんな感じの返し。



「なにか、あるの?」



訊いてみる。多分、訊かないと分からないこと。


言ってくれないと、こっちも理解できないから。



「先輩、私の想いを疑ってるみたいだから」


「蒼の、想い?」


「この前言ってたじゃん。私が本当に先輩のことを好きなのか、まだ疑っているって」



確かに、そんなことも言ったな。


そしてその疑問は、未だに解決していない。


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