第269話「どこか遠くの場所へ」


行き先は言われなかった。どこか遠くに行くとだけ告げられ、それっきり。


蒼はバイクを走らせる。その背中に乗って、俺は死なないことを祈るばかり。


次第に山道に入り、登り坂が続く。そのうち山の頂上らしき地点を通過して、今度は下り坂が続く。


山を下ると、街が見える。田舎の小さな街。


こういうところには、道の駅というものがある。数時間に一度は出現して、ほぼ毎回そこに停まって休憩。


そしてまた走り出す。トータルすれば、ほぼ1日。


そこそこの距離を走っている。しかし、この道には見覚えがあった。


1回だけ、同じ光景、同じ景色を見た覚えがある。


やがて辿り着いた場所。



「やっぱりここか」



思わずそう漏らしてしまう場所。



「休みなんだから、いいでしょ?」



そんなことを言う蒼。


目の前にあるのは、木製のペンションのような一軒家。


三角屋根に、ヒノキの香りが漂う建物。


慣れた手つきで鍵を開け、玄関のドアを開ける。


ここは、三永瀬家の別荘。


年末年始以来だ。



「おじゃまします・・・」


「そんなこと言わなくていいのに」


「いや、まぁ。なんとなく」



他人の家ですからね。言わなくていいと言われても、何となく言ってしまう。


そういう風に身についてしまっている。



「まずは掃除からね」



そう呟く蒼は、リビング全体を見渡していた。


いたるところにホコリがあり、換気もしていないため、どんよりとした空気感。



「なら、窓全部開けますね」


「分かった。ありがと、先輩」



到着して早々だが、大掃除が始まりました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る