第267話「岩船先生の恋愛価値観」


微妙な空気のまま、ただ時間だけが進んだ。


俺はとにかく居心地が悪かった。


蒼と一緒にいることが、辛いとさえ感じた。



「どうすれば、良いんですかね」



こんな生活を続けていれば、そのうち気が滅入ってしまう。


このモヤモヤした気持ちを、どうにかしたかった。



「どうすればと言われてもなぁ」



頭を悩ますのは、今回おれの愚痴相手になってしまった犠牲者。もとい相談相手。


退職してからは、ニートに成り下がった岩船先生だ。


もはや先生ではないが、この方がしっくりくるので先生と呼んでいる。



「このままだと全てが嫌になりそうで怖いんですよ」


「まぁ今の村上を見てると、そんな感じだな」


「まるでチートかバカうまい奴なのかを疑ってる時みたいなんですよ」


「FPSのはなしを持ち込むな?」



蒼の気持ちが本心なのか、それとも嘘なのか。


それの真実すら未だに霧の中。


本来なら、会わないとか距離を置くとか。まぁ色々やり方は存在する。


しかし、蒼は我が家に帰宅すればそこにいる。


自分の部屋に常にいる。昼夜は関係ない。大抵の時間を俺の部屋で過ごしている。


会わないなんてもってのほか。距離だってめちゃくちゃ近い。



「岩船先生・・・しばらく泊めてください」


「村上はどんだけ三永瀬のこと嫌いなんだよ」


「別に嫌いじゃないんですけど」


「じゃあなんだよ」


「分からないって、モヤモヤしません?」


「そりゃそうだな」


「そこなんですよ」


「三永瀬に直接訊くのはできないのか?」


「それで真面目に答えてくれたら苦労はしませんよ」


「それはもう疑心暗鬼の領域だろ。多分村上は、三永瀬がどんな回答をしても疑うと私は予想する」


「うっ・・・」



何となく想像できてしまうから怖い。


というか、心境的には図星だ。



「まぁとにかく訊いてこい」


「それで?」


「好きって言われたなら、それでいいじゃないか。例えそれが嘘だとしても」


「嘘だったら嫌じゃないですか?」


「大丈夫。高校生の恋なんていつか破局する」


「身も蓋もないこと言わないで下さい」


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