第266話「隠密行動失敗」


蒼が寝静まったあと、俺はひっそりとリビングまで移動する。


理由は単純。蒼と同じ部屋で寝るのが気まずいから。


PCをシャットダウンして、部屋の電気を消して、ひっそりと部屋を出ようとする。



「ねぇ」



刹那、背後から声がした。


寝ているはずの、蒼の声だ。



「な、なに?」


「どこ行くの?」


「下」


「なんで?」


「そっちで寝るから」


「ここで寝ないの?」


「うん」


「イヤなの?」



そう言った蒼は、布団から起き上がる。


そしてそのまま、迷わずこちらへ歩を進める。


部屋の電気は消えてるので、視界は真っ暗だ。


目の前に蒼がやって来るが、その顔はぼんやりとしか見えてこない。



「あの・・・さ。先輩」


「なに?」


「昼間はさ、突然だったから動揺しちゃった。あれ、すごく嬉しかった。ほんとだよ!」


「そっか」


「信じてないでしょ!」


「大丈夫。分かったから」


「嫌な感じ」



はぁ・・・。そんなため息が聞こえてくる。


同時に、彼女からはかれたであろう息が、スゥっと肌に触れる。



「一緒に寝ようよ?」



俺の片方の手首を掴んだ蒼は、ゆっくりとした口調で言う。


人と一緒に寝ることが、そんなにも良いものなのだろうか。


よく分からないが、片手をがっつり掴まれている俺には、逃走経路は存在しない。



「分かった」



そう言うしかない。そう悟った。


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