第265話「疑念と困惑」


「蒼の好きにして。なんでもする。なんでも受け入れる。蒼の本音を知りたい」



蒼は今まで、色んなことを俺に言ってきた。


しかし、その要求のほとんどは受け入れられなかった。


それは、初めてのことで抵抗感があったから。


でも、今回は違う。


蒼の要求を、真面目に応えようと思う。



「あのさ・・・えっと。じゃあ質問」


「うん」


「どうしてこんなことを?」


「それは言わない」


「そ、そう・・・」



いま、どういう状況なのか。なぜこんなことになっているのか。


蒼はその理解が追いついていないのだろう。


ひたすらに困惑している様子。



「なんか、先輩らしくないよ」


「そう?」


「うん。元に戻ってほしい。誰に言われたのかは知らないけど、こんなのは間違ってる」


「元には戻らないよ。誰にも言われてない」


「じゃあどうして? どうしてそんなこと言い出したの?」


「今まで蒼が言ってきたこと、なにも応えられなかったから」


「だから、好きにして・・・って?」


「うん」


「意味が分からない」


「何が分からないんだ?」


「そんなことする、意味が分からない」


「さっき話した通りだが?」


「先輩、おかしいよ」



そんな感じの会話が、このあとも続いた。永遠に平行線となるはなしが・・・。


結局蒼は、俺にスキンシップを求めてくることはなかった。


あれだけ色んなことを言ってきておいて、いざチャンスが訪れても、実行に移すことはなかった。


もしかしたら、匠馬の言ってることは正しいのではないか? そう思ってしまう。


スキンシップが人を好きになることの全てではないが、それでも疑わしくなってしまう。


蒼のことが、さらに分からなくなった。


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