第264話「少なくとも、男が言って栄える言葉ではない」


匠馬と別れ、そのまま河川敷をだらだらと歩く。


それにも飽きてきて、重い足取りで帰宅する。



「あ、おかえり」



帰ると、部屋には三永瀬蒼の姿。


もはや当たり前の光景となっているが、最近はストレスに感じている。


はっきりしないことが、もどかしくて仕方がない。



「あのさ・・・」


「なに?」



蒼に話題を振って、お互いに会話をして、それで納得する。


それができたら、こんなに悩むことはない。


もっと能天気に生きられると思う。


だけど、人の言葉は、嘘で満ち溢れている。


俺は蒼の本音を知りたい。本心を知りたい。



「蒼さ」



畳の上に座っていた彼女は、スマホをいじっていた。


そんな彼女の前に、俺は膝をつく。いわゆる膝立ち。


ちょっとだけ蒼の顔が下に見える。


どんな表情をしていたかなど分からない。それほど一瞬にして次の行動をした。


蒼の顎を片手で押し上げ、少しだけ上を向かせる。


それから閉じていた彼女の唇に、そっと自分の唇を重ねる。


数秒間したら、そっと離れる。



「せ、先輩・・・!?」


「これが、蒼の望んでいたことなの?」


「え・・・?」


「蒼に何回も言われた通り、俺は自己評価が低い。だから、蒼が本当に俺のことを好きなのか、まだ疑っている」


「そんな・・・」


「いいよ、今日はもう、俺のこと好きに使って」


「ど、どうした・・・の?」



きっと蒼は、次々と出てくる俺の言葉に困惑しているのだろう。


俺からしてみても、後から黒歴史に残るんだろうなぁって思っている。


不器用で色んな事の経験も少ない俺には、こんなことしかできない。



「蒼の好きにして。なんでもする。なんでも受け入れる。蒼の本音を知りたい」


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