第263話「匠馬の知る三永瀬蒼という人物」


「詳しくって言われてもなぁ」



偶然にも会った匠馬と、河川敷でのんびりお喋り。


まぁ実際は、匠馬が俺の話に付き合ってくれてるだけの構図だ。



「そもそも、三永瀬ってヤンキーとして噂が広がっていたから、クラスじゃ馴染めてなかったんだよ。先生にもマークされてたし」


「それは聞いてる」



それが嫌だから、わざわざその界隈と縁を切った。


普通の女の子として、学生として、生きていくために。



「んで、それからヤンキーを辞めたという噂が流れたんだよ。だけどさ、この前までヤバい奴だったのが、ある日突然いい奴になったって言われても、信じられないだろ?」


「まぁ」


「そういうことだよ。三永瀬は未だにクラスに馴染めてない。友達もロクにいないし、みんなから距離を置かれている」



一度失った信用は、簡単には戻らないということか。



「俺から言えることは、匠馬たちが言っていたヤンキーグルからは、完全に縁を切ってるってことだけかな」


「それはそうと、どうして三永瀬がグルと縁を切るようなことを?」


「蒼もそこと関わりたくて関わっていたわけじゃないらしい。なんというか、居場所がそこしかなかったというだけ。だから、蒼としては、普通の学生生活を送りたいんだとか」


「ほーん。そのために、ケジメつけてきたってことか」


「そういうこと」


「だとしたら、それは三永瀬の問題だな」


「と、言うと?」


「これから、三永瀬自身が頑張ってクラスや周りの人間の信用を得ていく」


「俺たちも手助けできるんじゃ」


「それじゃ、ケジメの意味がない。ヤンキーグルと縁を切るのはその一歩。ただの一歩に過ぎない。これから三永瀬が一人で歩んでいく道なんだから、俺らが手助けするのはご法度」


「そういう考え方か・・・」


「三永瀬としては、まず居場所が欲しかったんじゃないか? だから、村上の家に転がり込んだ」


「そこは、家庭環境が・・・とか、言ってたけど」


「それも大義名分。恐らく、恋人になったって話も」


「俺の家にいるための、言い訳に過ぎないって?」


「その可能性はあるんじゃないか? お前には悪いが、俺は村上が女の子から好かれるような人間とは思えない」


「それは俺も同感」



だとしたら、ちょっとショック。


俺は他人の出世に利用されるバネのような人間だったのか。


それはそれで、自分はその程度の人間と言われれば、自分の中で納得するものがある。


でも、いざそれで利用されるとショックはデカい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る