第262話「春の意外な出会い」


段々と息苦しくなるのを感じる。


自分の部屋に、三永瀬蒼という人物がいる。


プライベートな空間に、彼女がいる。


それがストレスになり、居心地を悪くしている。


こうして意味もなく、外に出る機会も増えた気がする。


なんというか、無性に外に出たくなるのだ。



「あれ、村上じゃん」


「ん? あ、あぁ・・・どうも」



ただの道。意味もなく歩いていると、知り合いとすれ違った。


相手は暁匠馬。向こうから話しかけてきたので、こっちも反応する。



「お前、生きてたんだな」


「死んではいないよ」


「そっか。村上はどこ行くんだ?」


「特には。ちょっと色々あって、家に居にくいからさ」


「なんだそれ?」



適当に話して終わるつもりだったが、どうやら匠馬は、想像以上に世話好きな人間のよう。


場所を移動して、河川敷にある芝生の広場にやってきた。


斜面に座り込み、腕を上げて身体を伸ばす。


3月下旬とはいえ、まだ寒さが残るこの季節。


背筋を伸ばすのは身体が冷える。



「それで、なんで家に居にくいのさ」



そこから始まる、匠馬からの尋問。いや、彼は相談に乗ってくれているだけ。


話すべきなのか。この人に話していいのだろうか。


そこだけが懸念点だが、ここまできて何も話さないのは違う気がする。


だから、大雑把に話すことにした。


蒼が家に居候していること。一応恋人同士になったこと。経緯。



「なるほどね」


「まぁ、そんな感じ」


「三永瀬、ヤンキー辞めたって噂は本当だったんだな」


「あ、それは本当」


「でもあいつ、ヤンキーってイメージ強いから、相変わらずクラスには馴染めてないみたいだぜ?」


「あ、そうなん?」


「そうみたいだな」


「詳しく頼む」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る