第260話「非常に軽い口」


「え、岩船先生が?」


「ま、まぁ・・・あ、これ誰にも言うなよ?」



帰宅して、そこにいるのは三永瀬蒼。


彼女は俺の落ち込んだ表情を一瞬で見破り、事情聴取がはじまる。


そこであっさり、俺は岩船先生の事情を吐いてしまう。



「だから辞めたのか」



ふぅーん。と、そんな感じの蒼。


病気と一言に言っても、その種類は様々。



「これは俺の予想だけど、岩船先生の病気って、深刻なやつなんじゃないかな」


「まぁ、仕事辞めるぐらいだしね」



岩船先生は独身だ。そして一人暮らしをしている。


身寄りがないわけではないが、仕事を辞めるということは、収入がゼロになるということ。


ちょっとした病気で、気軽に辞められる立場ではない。



「病気の詳細も分からないし、心配だ・・・」


「訊かなかったの?」


「訊けなかった」



岩船先生が病気と認めた瞬間から、息苦しいほどの空気感になってしまった。


できれば隠し通したかった。岩船先生は口にしないけれど、そんな風に感じ取れた。


そこから掘り下げようなんて、とてもじゃないけど思えなかった。



「先輩はさ、やっぱり岩船先生のことが気になる?」


「まぁ。病気って言われると、ちょっとね」


「ただの先生なのに、どうしてそこまで気にするのか。私には分からないよ」


「お世話になったから」


「私から見たら、好意を寄せてるようにしか見えない」


「そんなんじゃない。俺と岩船先生は・・・」



本当にそういう関係ではない。


ただの教師と生徒。そうじゃなくても、友達ぐらいの感覚だ。



「私は正直、岩船先生に勝てる自信はない。系統が違うっていうか、もうどうしようもない」


「何を言ってるんだ? 蒼」


「気にしないで。でも、私のことを見ていてほしい」


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