第259話「近しい中でも言いたくないこと」
「お久しぶりです。岩船先生」
「うん。久しぶりってほどでもないだろ」
学校が終わって何だかんだで1週間。
今日はこの春で教師を辞めてしまった岩船先生のお宅にお邪魔している。
小さなアパートの居間には、シングルのベッドとこたつがあるのみ。
非常にシンプルな印象。
この部屋に来るのは、2年前の年末年始以来だ。
「お茶ぐらいしかなくて申し訳ないな」
「いえ、お構いなく」
お茶を淹れてきた岩船先生が、こたつに入る。
一足先にこたつに入っている俺の、正面に。
「村上には色々と迷惑をかけたな」
「いえ・・・楽しかったですよ」
「そう言ってくれると助かる」
「あの・・・そろそろ話してくれても」
「はて、なんのことかな」
「とぼけないでください」
「まぁ、そうだなぁ」
今日の目的はそれだ。
「私が教師を辞めた理由・・・だったな」
岩船先生が教師を辞めると言い出したのは、割と最近のことだ。
ここ数か月の話。
退職理由も、結婚が決まったとか、出産するとか、そういう感じでもない。
そうなると考えられるのは・・・。
岩船先生は、相変わらず口を開かない。
だから、こっちから問いかける。
「岩船先生、病気・・・とかですか?」
そう考えるのは、自然なことかもしれない。
最近だと、転職とかそういうのが理由であるかもしれない。
でも、岩船先生に4月からの就職先があるとは聞いていない。
というか、それなら「転職する」の一言で済む話だ。
他人に話せないようなことでもなかろう。
「簡単に言ってしまえば、そうなるのかな」
「・・・なるほど」
病気、だったみたいです。
本人がはっきりと口に出したわけじゃないけど、濁すように肯定した。
それは、ほぼ確信と言うべきだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます