第258話「ある意味では浮気」


時間が進み、我が家に蒼がいることに違和感を感じなくなってくる。


当たり前のように家族と打ち解け、当たり前のように溶け込んでいる。



「ちょっと出かけてくる」


「ん? 先輩、どこ行くんですか?」


「散歩」


「珍しいですね。一緒に行ってもいいですか?」


「たまには一人の時間も作ろうよ」



ここのところ、寝てる時間含めてずっと蒼と一緒にいる。


別に嫌ではないが、イラっとくることも多々ある。


人間関係ってやっぱり、一定の距離感ってのが大切。


親密になればなるほど良いというものではない。


何と言うか、ここ数日で学んだことだ。



「私と一緒じゃ不満?」


「不満じゃないけど、たまには一人の時間を作ることも大切だから」


「浮気?」


「なんでそうなる。というか、俺に寄ってくる女がいると思うか?」


「確かに!」



納得してくれるのは有難いが、なんというか、ちょっと違うと思います。


ちょっと傷ついちゃいます。



「まぁそういうことだから、ちょっといってくる」


「いってらっしゃい」



蒼に見送られて、家を出る。


春の昼間は暖かいイメージがあるけれど、実際はそんなことない。


普通に気温は低い。それに、春特有の風があるため、体感温度はさらに低い。


今日、わざわざ一人で出かけたのは理由がある。



「ふぅ・・・」



目的地まで歩いて、目の前で深呼吸。妙に緊張する瞬間。


ピンポーン。


アパートに、インターホンの音が鳴る。



「誰だ?」


「村上です」



そう言うと、ゆっくりとドアが開かれる。



「いらっしゃい。入りな」


「お久しぶりです。岩船先生」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る