第253話「斜め上からの攻撃(アタック)」
蒼が俺の家に泊まることになった。
そろそろ寝ても良いような時間になっているのだが、一つだけ問題が解決しないままだった。
「布団を下に持っていくから、手伝ってほしい」
「え、わたし先輩と一緒に寝れないんですか?」
蒼がどこで寝るのか・・・という問題。
これ、年末年始でもしたような話だな・・・。
個人的には、一人で落ち着てい寝たいところ。
普段と環境が違うと、やっぱりなんか嫌だなぁってなる。
「一応言うけど、布団ってこんな感じで狭いぞ?」
押入れから出したのは、普段俺が使っている布団。
他所様はベッドが主流と聞くが、俺は生まれてからずっと敷布団だ。
敷布団ってのは二人で寝ることを想定していないから、一人だけでその面積がほぼ埋まる。
二人で寝るとなると、確実に身体を密着させないといけない。
それでも余裕はない。
「なにか問題あります? これぐらいならいけると思いますけど」
「いけないと思いますけど?」
「先輩は何を懸念してるんですか?」
「全てにおいて懸念しています」
敷布団に身体が収まっても、掛け布団がかからない問題がある。
真冬でエアコンもないような部屋だ。
夜は平気で氷点下とか言ってしまうような環境で、敷布団から身体を出してしまったら風邪をひいてしまう。
「やっぱり先輩はヘタレですね。せっかく恋人同士になったのに・・・」
ボソッとそんなことを言う蒼。
恋人同士という単語が聞けて、俺らが恋人という関係になったことに初めて確信を持つ。
「先輩ってもしかして、イチャイチャするのとかも苦手な感じですか?」
「そんなこと言われても・・・嫌いではないけどさ。なんか、自信なくて」
イチャイチャってふわっとした表現すぎてよく分からない。
どんなことにせよ、生物的本能として好きな人とイチャイチャすることに対して抵抗感はない・・・と思う。
ただ蒼は好きな人ってわけでもないし、それ以前に自分に自信がなさすぎることに問題がある。
自分に自信がないだけで、行動する全ての行為や付随することに対しても自信がなくなってしまう。
これでいいのか・・・って考えになってしまう。
これはイチャイチャすることに限った話ではなく、例えばお店で注文する際とか、授業で質問する際とか。
自分に自信がないと、声が小さくなったり、行動できないことがある。
普通の人からすれば、できて当然のことかもしれないが、それができない人だって世の中には存在するのだ。
だからまぁ、説明するにしても自信がないという一言に尽きてしまう。
「先輩。ひとつだけ訊いてもいいですか?」
「あ、うん。なに?」
「わたしって、可愛いと思いますか?」
どういう意図の質問なのだろうか。
別にブサイクって思ったことないし、普通に可愛いと思う。
「可愛いと思うよ」
「ありがとうございます。でも、それと同じなんですよ?」
「はい?」
「先輩のことイケメンだとは思いませんけど、私にとっては誰よりもカッコイイ彼氏なんです」
「つまり」
「自分では自分のことが嫌いかもしれません。今の話でいえば、私から見た私は可愛いなんて思いません。だけど、先輩は可愛いって言ってくれました。結局のところ、そういうことなんですよ。とにかくもっと自信を持ってください!」
まさか、蒼からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
蒼から見れば、俺は自分が思うほど酷い人間ではないということ。
とにかく自信を持ってほしい。それが、蒼が俺に求めること。
なんというか、斜め上から励まされた感じだ。
「ありがと」
「自信はつきましたか?」
「ちょっとだけ」
「あはは。よかったよかった」
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