第252話「言語化への回答」
「なるほどね」
そんな感じに、呆れたような返事をする蒼。
恋なんてしたことないから、蒼の気持ちを分かってあげることができない。
丁重にお断りすることもできたけど、今までの関係が壊れることを考えると、怖くてそんなことはできない。
「ごめん、こんなことしか言えなくて、不甲斐ないって自分でも思う」
「でも、それでこそ先輩ですよね。頼りないし、ヘタレだし、顔キモいし」
「最後のは悪口じゃない?」
「全部悪口ですよ」
たしかにそうですね。
まぁでも、否定するところはない。それも事実。
「でも、私は先輩のこと好きです。必ず先輩のこと振り向かせてみせますから! だから、これからよろしくです」
「う、うん・・・」
あ、これ成立ってことですか?
俺と蒼、恋人同士になったということですか?
よく分からないけど、その事実確認をするわけにはいかない。
世の中には、雰囲気やらムードやらという見えない何かが存在する。
いま事実確認をすると、それをぶち壊すことになり、禁忌に触れることになる。
「ねぇ!」
「はい?」
蒼の声に反応するように、返事をする。
刹那、彼女は俺の隣に寄り添い座る。
そして、そっと彼女の手が絡み合う。
暖かいけど、ちょっとだけ手汗がある。それでいて、自分のよりちょっとだけ小さな手。
そうかと思えば、今度は頭がコトンと、こちらに倒れてくる。
俺と蒼の身長差はほぼない。ちょっとだけ、蒼が小さいぐらいだ。
座っていても、それは同じ。
頭と頭がぶつかると、そのまま蒼の頭がズルズルと落ちてゆく。
そしてやがて、肩に乗っかる。
「な、なんです・・・か?」
恐る恐る、口を開いて訊いてみる。
「何となく・・・」
そうとだけ言うと、再び無言になるのであった。
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