第239話「朝から元気な気分屋さん」


母親が余計なことを言ったせいで、俺の部屋に三永瀬蒼がやって来てしまった。


さっきまで寝ていたうえに、こんな朝から他人が来るなんて思ってもいなかった。


だから、部屋は荒れ放題だ。



「汚いと先輩のお母さんが言ってましたけど、本当にその通りですね」


「悪かったな。人が来るってわかってたら、片付けておくんだけど」


「そこはお構いなく。こういう生活感がある方が私は好きですから」


「無理にフォローしなくていいんだよ」



後輩に気を遣わせてるようで心が痛い。



「っていうか、蒼はなんで迎えに来たの? 約束してたっけ?」


「してないですね。でも、気分で何となく」


「こんな早くに来たのも気分?」


「そうですね」



えらい迷惑な気分屋だな。


と、そんな会話をしつつも、布団を畳んで着替えをして・・・。



「ごめん、洗面所かどっかで着替えてくる」



何も考えずに服を脱ごうとしたら、刺さるような蒼の視線に気づいた。



「そんなことしなくていいですよ。押しかけちゃった身ですから」



そんなことを言いつつも、蒼はその場で座り込んで動こうとしない。


蒼とは友達だと思っているし、最近は仲がいいとも思っている。


しかし、蒼は他人であり女子である。さすがに目の前で着替えるのは良くないだろう。


というか、俺が居心地悪い。



「すぐ戻るから」



そう言い、制服を腕にぶら下げて部屋を出る。


洗面所に向かってささっと着替えを済まし、そのまま部屋に戻る。



「すまん、着替え終わった」


「・・・あ、もう?」



扉を開けると、そこには何かしらを物色する蒼の姿。


さっきまで座っていただけの蒼だったが、今は立ち上がって部屋にある本棚や戸棚なんかを入念に見ている。


まるで、何かを探しているような・・・。



「なにやってるの」


「お宝を見つけようと思って」


「最近は電子版ですよ」


「あ、そうなんだ」



“何が”とは言いませんけど、お宝と言って探しているモノは何となく想像つく。


残念ながらうちでは全て電子に落とし込んでいるため、どんなにそれっぽいところを探しても見つからないのだよ。



「なるほど。電子版にはあるんですね」


「う・・・」


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