第227話「鈍感と困惑」


蒼が夕凪先生にとある質問をした。


その意図は分からなかったが、その日の帰り道に蒼からこんなことを言われた。



「先輩には悪いですけど、ホッとしました」


「え?」



今の蒼の発言。


どういう意味なのか脳内をフル稼働させて考えてみる。


が、本気で分からない。



「・・・」


「え? なに?」



唐突に言われた言葉。それから何も話さない蒼。


困惑するしかない自分がいる。



「先輩って、鈍感すぎますよね」


「はい・・・はい?」


「何でもないです」


「なんかすみません。鈍感は前にも言われたことがあります」


「でしょうね」



なんかムカッときたが、言い返すことができないので黙り込む。



「でもいいんです。先輩は先輩ですから、もう何でもいいんです」


「バカにしてない?」


「バカにしてるかもしれませんね」


「一応、おれ年上だけど・・・」


「だったらどうします? 叱るんですか?」


「いや・・・そんなことはしないけど。というか、別に敬う必要すらない。さっきのは冗談だから・・・」



上下関係は苦手だ。


それは、先輩に対して敬うこともそうだが、逆に敬われることも苦手だ。



「なるほど。敬う必要ないんですね」


「他の人には必要だよ。でも、少なくとも俺にはね。俺はそう言う感じの人間じゃないから」


「自虐ですか? それとも謙遜ですか?」


「知りません」


「もっと自分に自信を持ってもいいと思うんですよ」


「どうしたん? 急に」


「先輩は自己評価低いですからね」


「それは否定しないけど」


「もっと自分に自信を持てば、少しは変わると思いますよ」


「変わって、どうするんだ?」


「分かりません。モテるんじゃないんですか?」


「モテたところでなぁ・・・」



あまり興味がないのが本音。


まぁ彼女がいたらいいなぁ、ぐらいには思っているけど、超絶ほしい! ってほどでもない。


それ以上に、人付き合いとか、カップル特有の風習とかが分からないし、面倒くさい。



「まぁ私は面白くないですけど」


「やっぱ俺がイキるのはヤバいか?」


「そうじゃないです」



ぷいっ、とした顔をして、上機嫌だった蒼を少し不機嫌にさせてしまった。


何がいけなかったんでしょうね。


何も分からない・・・。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る