第220話「自分の大切な居場所」


だらだらと過ごしていると、次第に新学期の日が近づいてくる。


どうにか蒼を説得して、地元に帰らなければならない。



「あの・・・三永瀬さん」


「なに?」


「そろそろ帰らないとさ」


「イヤよ」


「うーん・・・その気持ちは分からなくはないけど」



個人的には家に帰りたい。


ネット環境が整った場所で、ゲームをしたい。


でも、そんなことをバカ正直に言う訳にはいかない。



「そんなに帰りたいなら、村上先輩だけ先に帰ればいいじゃない」


「いや、足がないよ」


「近くの駅まで送ってあげるよ」



そこから電車で帰れってか。


まぁそうさせてもらいたいのは山々だが・・・。



「三永瀬さんも一緒に帰ろうよ」


「イヤよ」


「どうして?」


「イヤなものはイヤ」


「そんな小学生みたいなわがまま言わないで下さい」


「だって・・・」



はぁ・・・と、ため息をつく。


それから深呼吸。


込み上げそうな感情を、自制するかのように一息入れる。



「家庭に居づらい、学校にも居場所がない。唯一の居場所だった工場跡のやからとも絶交したし・・・わたし、何やってるんだろ」



要するに、心が休まるところがないってことか。


この別荘は、蒼にとって数少ない心が安らぐ場所。


この別荘から家に帰るということは、自ら地獄に落ちるようなこと。


もし俺が蒼の立場だったら・・・帰りたい?


そんなわけない。帰りたくないよな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る