第216話「思うがまま、気が済むまで」


蒼の家庭環境は、他人から見れば正直微妙な響きだった。


それはつまり、完璧に最低な人間はいないということを具現化したような。


確かに、普通の家庭とは程遠い環境だ。


でも、だからと言って保護が必要な状態かと言われればそうではない。


でも・・・。



「辛いですね・・・」


「分かってくれるんですか?」


「まぁ・・・想像に過ぎないですけど」


「そうですよね」


「なんかすみません」


「大丈夫です。それだけでも・・・分かってくれるだけでも」



辛いのは分かる。


想像することはできる。


何と言うか、親ガチャ失敗したんだなぁって感じだ。



「そうですね・・・俺も力になりたいけど、大したことはできないから」


「いえ・・・大丈夫ですよ。また辛くなったら、ここに来るだけですから」



ここ、というのは、今いる別荘のことだろう。


親との距離を離すことができるこの空間は、蒼にとっては安らぐ空間なのだろう。



「帰りたくないですか?」


「できればね。でも、いつかは帰らないといけないから」


「でも、まだ1泊ですよね。まだ、早いんじゃないですか?」


「そうかもね。いつもは1週間ぐらいいたりするから」


「最後にここに来たのは?」


「6月ぐらい?」



蒼が学校に1ヶ月ぐらい来なかった時期か・・・。


多分1ヶ月ここにいたわけではないだろうが、学校に来なかった理由はそう言うことなのか。



「それじゃ、まだここにいましょうか」


「先輩、帰らなくていいんですか?」


「特に予定ないですし」



それを聞いた蒼は、その場で唖然と立ち尽くした。


瞳からは、溢れ出る涙。


そんなに嬉しかったのかな?



「大丈夫ですか?」


「ごめんなさい・・・」



さて、一応親に連絡入れておかないとな・・・。


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