第215話「所詮は子供ですから」


昼過ぎ。ここまでダラダラと蒼の別荘で過ごしてきたが、さすがに帰ろうってことになった。



「はぁ・・・帰りたくないなぁ」



と、憂鬱そうな蒼。


昨日からそんなことを言っているが、半分以上冗談だと思っていた。


とはいえ、ここまで来ると冗談という要素はないのかもしれない。



「踏み込んだ話かもしれないですけど、三永瀬さんって家庭環境良くないとかそんな感じなんですか?」


「良いと思う? 私の家庭環境」


「・・・」



何も言い返せなかった。


そりゃそうですよね。


主に暁匠馬という人間からだが、いくつか噂を耳にしている。


それに、あんな破天荒な環境に身を置いて、親がしっかりしていると想像する方が難しい。



「私は独立したいと思ってるの。まずは一人暮らし」


「そっか」


「でも、それにはお金が必要でしょ?」


「そうですね」


「家賃払って、光熱費払って、食費払って・・・それ以外にもたくさんお金かかるでしょ?」


「まぁ・・・」



一人暮らししたいなんて考えたこともなかった。


だから、どれだけお金かかるかなんて知るはずがない。


そんな俺でも、バイトだけで一人暮らしをすることの難しさぐらい想像できる。



「友達の家とかに居候とか・・・できないんですか?」


「先輩も酷なこと言いますよね」


「ご、ごめん・・・」



家に帰りたくないから、ヤンキーの集団に紛れていた。


多分そんな感じなんだろう。


頼れる友達がいたら、そんなことにはなっていない・・・と、思う。



「まぁ所詮は子供ですから。私の力じゃ何もできないんですよ」


「どうですかね・・・」


「なにか策があるの?」


「ないですけど・・・」


「最低ですね」


「そういう人間ですから。おれは」


「そっか。まぁそんなもんですよね」


「ちなみに、どんなところが辛いんですか? よければ話聞かせて下さい」


「・・・しょうがないわね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る