第208話「来年という1年」


年が明ける。


今年が終わり、そして新たな1年が幕開けする。


年末年始のこの雰囲気は、割と好きだ。


1年に一回しか味わえない特別な雰囲気。


今年は、三永瀬蒼と二人で過ごす年末年始。



「あと10分ですね」


「そうだな・・・」


「そういえば先輩って、ヤッたことないですよね?」


「・・・!?」



唐突にその質問は意味が分からんぞ!?



「先輩は、今年卒業するのと来年卒業するの、どっちがいいですか?」



明らかに蒼の地声ではない、ゆっくりと誘惑するような甘い声。


彼女はバスローブ姿ということで、それも相まって刺激が強すぎる。



「なにを言ってるんだ?」


「意地悪は良くないですよ。先輩も分かってるはずですよね・・・? それとも、年越しえっちをご所望ですか?」



どう反応すれば正解なんだ、これ・・・。


と、ここでソファーの横にあるごみ箱がふと視界に入る。


そこには、飲み干されているチューハイ缶が1本。


なるほど・・・酔っているのか。


さっき、「私は(お酒を)飲もっかな」って言ってたくせに、既にもう飲んでるじゃないか。



「みなが・・・蒼? 酔ってる?」


「何言ってるの? そんなことないよ!」



テンションがいつもより高めな気がする。


つまり、酔ってるということ・・・で、いいよね?



「せんぱーい」


「ダメですよ。まだ未成年なのに・・・」


「だって・・・こうしないと勇気が出ないんだもん」


「勇気?」


「緊張する」


「何が言いたいのか分かりませんけど、蒼の寝室どこですか?」


「うーん。隣の部屋」



今いるリビングから廊下に入ると、洗面所の他に2つのドアが存在する。


一番手前側のドアを開けると、そこには4畳ほどの小さな空間。


他の部屋と同じく全面ヒノキが使われており、リビング同様に木の香りがするような部屋だ。


この部屋にあるのは、大きなベッドが一つだけ。


恐らくセミダブル以上のものだろう。



「ほら、ここでいいんですね」



いわゆるお姫様だっこでここまで運び、ベッドの上に蒼を置く。



「ふかふかー」


「おやすみなさい」



そう一言だけ言って、立ち去ろうとする。



「マッテ」


「なんですか?」


「一緒に寝ないとヤダ」



勘弁してくださいよ・・・この人は。


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