第207話「今年という1年」


そろそろ年明けだ。


まさか年越しを後輩の女の子と過ごすとは思わなかった。


人生何があるか分からないものだな・・・。



「先輩、そろそろ年明けますよ」


「もうそんな時間か・・・」


「先輩は今年、どんな1年でしたか?」



そんなこと訊かれても。


俺の一年なんて、ロクでもないものだ。


一番印象的だったのは、岩船先生が倒れたこと。


そして、天文部の顧問代理として夕凪先生がきたこと。


そう言えば、3月ぐらいまでセシルがいたな。



「・・・?」



まぁこれ、蒼に話したところで彼女は何も知らないんですけどね。


いま思えば、蒼とセシルって接点ないですね。


なんか不思議な感覚だ。


んで、目の前にいる人の回答をしなければ・・・。



「今年は、三永瀬さんと一緒にいた時間が多い気がする」


「あ、それ私も思ったよ!」


「あ、はい」



なぜそこでテンションが上がるのだろうか。


まぁでも、4月からは蒼が入部。


それから色々あったとはいえ、それを含めて蒼が関わる出来事が多かった気がする。



「私にとって、今年は大きな一歩だったよ」


「そっか」


「うん、先輩のおかげでもあるんだけど」


「そ、そうなんですか」


「あはは、自覚ないんだ」



ないですね。


ただボーっと生きているだけの自覚ならありますけど。



「来年はどんな一年になるのかな」



と、蒼がボソッと言う。



「三永瀬さんは、来年どんな一年にしたいですか?」


「うーん・・・まず、村上先輩に蒼って呼んでもらえるように努力する」



あ、それ本人の前で言っちゃうんですね。



「えっと、下の名前で呼んだ方が良い感じですか?」


「もちろん」


「わ、分かりました。下の名前で呼ぶように努力します」


「別に無理しなくてもいいよ。でも、苗字だと距離感あるなぁって」



普通の人は、そう感じるのだろうか。


女子だからってのもあるだろうけど、苗字で呼ばないと馴れ馴れしいかなぁって思っていたのだが。


でも、言われてみれば男相手には下の名前で呼んでるよな・・・おれ。



「えっと、蒼さん」


「なんでさん付けなの?」


「え、呼び捨て?」



コクリとうなづく。


呼び捨てですか・・・ハードル高いですね。



「あ、蒼・・・」


「はい」


「これでいいですか?」


「グッチョブ」



いいらしいです。


なんでだろう。下の名前で呼ぶだけなのにすげぇ緊張した。


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