第203話「私の思い出の街」


辺りはすっかりと暗くなってしまった。


出発してから14時間ほど。


ダムからは3時間ほどが経過するが、この間に山を抜けて大きめの都市にたどり着いた。


ダムを出発した葵のバイクは、帰路につく・・・かと思ったが、家の方向へは向かっていない。


俺は車やバイクの免許を持っていないので分からないが、そろそろ疲れが出てくる頃ではないだろうか。



「そろそろ休憩しませんか?」


「疲れた?」


「いや、三永瀬さんの疲労が心配です」


「あ、わたし?」


「はい」


「気を遣ってくれてありがと。私は大丈夫ですよ」


「そ、そうですか」



本人がそう言うのなら任せるけど・・・。


疲れて事故るのだけは勘弁。その前に休憩してほしいところ。


ここまで14時間ほど走ってきたが、道の駅やその他駐車場で10分以上停まった回数はわずか3回。


休憩は最低でも2時間おきにとるのがベストという話を聞いたことがある。


その話で行けば、もう7回ぐらい休憩しているはずだが・・・。



「村上先輩、ここ、どこだか分かる?」



ここ・・・というのは、今走っている街のことを指しているのだろうか。


こんな遠くの街、初めて来たから分かるはずがない。



「いや・・・」


「ここはね、私の思い出の街」


「そ、そうなんですか」


「ちょっと先に私の家の別荘があるから。今日はそこに行くわ」


「あ、はい」



なんだ・・・ノープランとか言っておきながら、ちゃんと目的地があるじゃないか。


このまま野宿コースか、夜通し走るコースのどちらかなのかと思っていたので、そこはちょっと安心したかもしれない。


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