第176話「もしかしたら気づけたかもしれない」


俺の知ってる平林綾香は、岩船先生ととても仲が良かった。


そして、何かしらのコンプレックスを抱えていた。


気づいてあげられれば、もしかしたら・・・。


気づけるタイミングはあったはずだ。


そう、自分が思い込んでしまう。


でも。。。



「もしかしたら気づけたかもしれない・・・なんてことは、絶対にありえないわよ」



そう、三永瀬蒼は言う。



「どうして?」


「じゃあ村上先輩は、綾香のお腹の中にあるものに気づいてた?」


「いや・・・」


「それすらも気づかないんじゃ、彼女の悩みを察することなんて無理よ」


「・・・」



何も言い返せない。その通り過ぎるから。


自分のことがただただ憎い。



「でもそれは、誰もがそうよ。村上先輩だけじゃない」



と、蒼がそう付け加えるように言ってくれた。


俺が鈍感だから・・・とか、そういうことではないようだ。


何となくだが、ちょっとだけ心が軽くなったような・・・。



「結局、平林さんが自殺するのは避けられなかった・・・ってことかな」


「それは知らないわ。もしかしたら、避けられていたかもしれない。でも、もう彼女は死んでいるし、それは過去の話よ」


「そうだけど」


「あなた、やけに綾香に執着するわね」


「色々あったから」


「ふーん」



その色々を訊かれるのかと思った。


だけど蒼は、興味なさげな返しをする。


訊かれたところで、答えにくいのが俺の本音。


だから蒼の反応は普通に助かる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る