第175話「バックグラウンド」


「彼女はルックスも性格も良いからね」



そんな一言から始まった蒼の言葉は、平林綾香が自殺に至るまでの一部始終だった。


彼女が高校1年から2年にかけては、人間関係に苦しむようなことは特になかった。


グループの中でも男女問わず友達がいて、それでも不良みたいな感じにはならなかった。


ただグループに出入りしているだけの人間で、それ以外でも友達がいたそうだ。



「だけど、高校3年生になった頃かな」



平林さんは大学を目指していた。


だから、受験勉強に励むようになったらしい。


学校から帰宅すると、熱心に勉強をする。


そうすると、必然的にグループの人たちとの関りも減ってくる。



「それが面白くなかったのか、それとも寂しかったのか。それは分からないけど、一部の男どもが騒ぎ出して」



騒いだといっても、最初はメッセージを送る程度だったらしい。


顔見せろよ・・・みたいな。


しかし、平林さんはそれでも勉強に向き合う姿勢をとった。


それに怒り狂ったのかは知らないが、その男どもが帰宅途中の平林さんを半ば強引に誘拐。



「男が4人か5人か・・・性欲に溺れた男どもがやることなんて想像できるでしょ?」


「あ、・・・うん」



そこまで言われちゃうと、まぁ分かりますわな。



「綾香、私の知る限りだと2~3回は堕ろしてるそうよ」


「・・・そ、そう、、、なんですね」



ということは、それは一回限りの出来事ではなかった・・・ということか。


最初の出来事が高校3年生のときで、自殺した頃までそれが続いていたと考えると・・・。



「村上先輩は、綾香の解剖結果は聞いてる?」


「いや・・・」


「変わり果てた綾香のお腹には、小さな命があったそうよ。父親が誰かも分からない、そんな命が」



何とも言えない空虚な気持ち。


あまりにも胸くそすぎる。


この事実を、岩船先生は知っているのだろうか。


そして、俺と関わっていた平林さんは、そんな辛い想いをバックグラウンドに抱えて過ごしていたのか・・・。



「三永瀬さんは、その事実を平林さんが生きていた頃から知ってたの?」


「知ってた。と、言ったらどうするの?」


「どうにかして・・・ほしかったかも」


「私にどうしろと?」



何もできない。何もすることができない。


世の中には、どうしようもないことがたくさんある。


まだ高校生の俺にも、それは何となく理解できる。


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