第173話「無頓着で無関心な声」


思い切って、三永瀬蒼に平林綾香のはなしを切り出した。


そこまではいいのだが、一体どこまで話せばいいのかが分からない。


蒼のことを、どこまで信用していいのか分からない。


先程まで謎に湧き出ていた自信。それから信用できそうな考えはどこかに消え去っていた。



「それで?」



そんな風に返してくる蒼に、ド直球なことは言えない。



「ど、どうして・・・平林さんが死んじゃったのか・・・って」


「自殺でしょ」



そこまで知っているのか。



「なんで自殺したのかなって・・・」


「そこまでは知らないわ」


「知らないんだ」


「うん。村上先輩は、綾香とどんな関係だったの?」


「え、えっと・・・」



かなり微妙な関係だったのは覚えている。


ファーストキスの相手ではあるが、別に恋人同士だったわけではない。


彼女は天文部に入り浸っていて、岩船先生と仲が良かった。


じゃあ、俺と平林綾香の関係は・・・。



「天文部のOBとして、部活に来てたりしてて・・・」


「ふーん」



興味なさげな返しだ。



「それで?」



と、蒼は先程と同じ返しをしてくる。


それで・・・と言われてもなぁ。



「えっと」


「それで、私には何を訊きたいの? 今更その女の名前を持ち出すってことは、何か訊きたいことがあったからじゃないの?」



まぁ・・・そうなんですけど。



「訊きたいこと・・・は、山ほどある」


「じゃ、質問してみれば?」


「したいんだけど・・・」


「私のことが信用できないって?」



そう言った彼女は、部室にある机に腰かける。


足を組んで、ぶら下がった足からローファーが脱ぎ捨てられる。


これも、ちょっと前の蒼だと絶対にやらないような行動。


これが素の彼女だと考えると、やっぱり怖い・・・。


苦手なタイプの人間だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る