第165話「彼女の居場所」
「別に、やりたくてやってるわけじゃないんだ」
その一言から始まった三永瀬蒼のはなし。
彼女の中学時代からの話は、以前に岩船先生から耳にしている。
しかし、今から聞くのは本人が語るエピソードだ。
彼女は中学時代から、世間一般で言うところのヤンキーと呼ばれるグレた人間だった。
でも、高校ではそれを隠していて、そして、俺が口を滑らしてしまった。
「ここいらには、それなりにデカいグループが存在するんだよ」
「いわゆるヤンキーグルってこと・・・?」
「そう。んで、うちのクソ兄貴がそのグルに昔からいてな」
その影響で、蒼もそのグループに出入りするようになったようだ。
三永瀬蒼の性格は、元々そこまで内気なわけではなかった。
でも、中学のときからそのキャラを作り、裏の顔を知っている人以外はその性格でまかり通っていた。
「その、やりたくてヤンキーやってるわけじゃないんですね」
「まぁな」
「なら、もう関わらないって選択肢はないんですか?」
「はぁ・・・君は、人間関係を甘く見すぎてるよ」
怒りというか、もう、呆れられたような言葉だ。
つづけて、蒼が喋る。
「そんな簡単に関係を断ち切ることができれば苦労はしない。グループって言ったけど、あれはもう立派な組織よ。会社のようなもの。んで、私は兄貴のおかげでそれなりに高いカーストに居座れてるの」
なるほど。何となく理解できたような気がする。
要するに、敵を多く作って逃げるよりも、現状を維持する方が得策。
自分の居場所も失わないし、敵を作ることもない。
「あの、一つだけ訊きたいことがあります」
「なんだよ」
「三永瀬さんは、これからどうするんですか?」
「これからって?」
「だって、俺にはバレちゃったじゃないですか」
「私のこと、言いふらすのか?」
「そこは安心してください。言いふらす友達がいません」
「普通なら信用できないが、君なら説得力があるな」
と、また呆れたひと言。
しかし、三永瀬蒼のうわさは、それなりに膨れあがっている。
それは、友達がほとんどいない俺の耳にまで入ってきていることが何よりも物語っている。
取り返しのつかないことになる前に、どうにかしてあげたいところ・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます