第164話「それは彼女の真の姿」


「見たん?」



三永瀬蒼の口調が、急に強張った。


いつもの細々しい声ではなく、太く低い声。



「あいや・・・えっと」


「誰から聞いた?」


「あいや・・・その」


「はっきりしろよ」



そう言い、目の前まで接近される。


背の低い彼女は、その見た目から弱々しい様相だ。


しかし、今の彼女はそんな雰囲気を全く感じさせない。


貫禄のある、俺の苦手なタイプの人間。



「すみません・・・」


「謝るだけじゃわかんねぇんだよ」


「は、はい・・・」


「見たのか? 廃墟に入るところ」


「は、はい・・・たまたま」



気が動揺する中でも、ここで暁拓馬の名前は出さなかった。


俺が口を滑らしたことだから、変なことに巻き込むわけにはいかない。


と言うよりかは、陽キャを敵に回すのが怖すぎたから・・・。



「はぁ・・・」



頭を抱える彼女は、髪をひっかきながらその場をバタバタ歩き回る。


どうしよう・・・どうするか・・・。


そんな感じに。


その姿は誰が観ても分かる。動揺している。



「あ、あの・・・」



背中を縮めながら、話しかける。



「なんだよ」



もう、いつもの三永瀬蒼ではない返事。



「えっと、どうして、キャラ作ってるんですか?」


「は?」


「だってほら、前までの三永瀬さんはそんなんじゃ・・・」


「はぁ・・・分からないのか?」


「はい・・・すみません」



よくいる。自分の本当の性格を隠して、作って、そうやって過ごしている人。


そういう人の気持ちは、今も昔も理解できない。



「話してやるよ」


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