第163話「スマイル・クリエイティブ」


部室にただならぬ空気が漂う・・・そう感じているのは、俺だけかもしれない。


およそ2か月ぶりに姿を見せた三永瀬蒼が、俺の数メートル先に座っている。


久しぶりに部活にやってきた彼女は、夏休み前までの彼女とそう変わらない。



「何見てるの?」



蒼が細々しい声でそう言ってくる。


ジッと彼女を見ているのがバレてしまったのだろうか。



「あいや・・・別に」


「7月の最後に行ったカラオケ。覚えてる?」



カラオケ・・・。


そういえば、行きましたね。



「覚えてるけど・・・」


「あれ、楽しかったよ。また一緒に行ってくれない?」


「あ、うん・・・いいけど」


「やった」



そう言って無邪気に浮かべる彼女の笑みは、まるで悪魔のようだ。


無邪気そうに見えて、そうには見えない。


その笑みは本物なのか、偽物なのか・・・。



「三永瀬さん」


「なに?」


「この2か月間、何してたの?」


「えっと・・・体調悪くて。ごめんね」


「体調悪かったのか?」


「うん。だから、学校に来れなくて」


「嘘だよね? この前、三永瀬さんの姿見たよ。学校で、友達と歩いてた」


「・・・」



詮索する気はなかった。


でも、彼女がどうして俺に嘘をつくのか、分からなかった。



「学校は・・・たまに行ってたよ」


「俺が見たのは、たまたま学校に来ていた三永瀬さんなの?」


「そうなんじゃない?」


「そっか。ならさ、町外れにある廃墟に出入りしてたのは?」


「え・・・?」



と、ここで口を滑らしたことに気づく。


その話を持ち出すということは、気弱そうな三永瀬蒼ではなく、グレた三永瀬蒼と対話するということ。



「見たん?」



彼女の口調が、明らかに強張った。


睨みつけるような視線。ただならぬ殺気に満ち溢れた気配。


完全にやらかしてしまった・・・。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る