第156話「悔やんでも悔やみきれない思い出」


石畳の階段を登り切った。


ただ歩いていただけなのに、なぜか息が切れている。



「情けないな」


「岩船先生って、意外と体力あるんですね」


「いや、村上が体力ないだけだと思う」



そんな会話をしつつも、目の前にある社(やしろ)に目を向ける。


村山神社。ちょうど1年前にも訪れたことのある神社だ。



「ここは、私にとって反省の場所でもある。嫌な思い出の地でもあるけどな」



そう言う岩船先生の瞳は、明後日の方向を向いていた。


1年前に訪れたときも、早朝で、俺と岩船先生だけだった。


そして、その時に話してくれた。


ここでの、平林綾香との思い出を・・・。



「平林が生きていたら、今頃は何をやっていたんだろうな」



岩船先生にしては、らしくない言葉だ。


なんというか、俺のイメージしている岩船先生ではない。



「先生・・・」


「悔やんでも仕方ないよな。でも、悔やみきれないんだ」


「そ、そうですよね・・・俺も・・・あいや、何でもないです」


「今も思ってるんだ。私はどうしたらよかったんだろうって」



どうしたら良かったのだろうか。


平林綾香は、1年前の7月に自殺した。


あまりに突然の出来事で、あまりに衝撃的な出来事だった。


彼女は、岩船先生と仲が良かった。


だからこそ、岩船先生は彼女の死をひどく後悔している。


岩船先生は一見クールそうに見える。


冷徹というか、メンタル強そうって感じ。


でも、岩船先生の心は意外とデリケートなのかもしれない。


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