第151話「深刻そうなその場の空気」


家の建物を出ると、案外あっさり二人の姿は見つかった。


いや、正しくは声だけ聴こえた。


街中にある普通の家と比較すれば、あまりにも広大な庭。


まるでトトロに出てくる家のお庭のような・・・。


庭の奥側は、そのまま林へとつながっている。


そんな林の入口らへんの木々の中から、二人の声は聴こえてくる。



「どうするのよ。結局さ」


「そうは言われてもなぁ・・・」



と、なんだか深刻そうな口調。


一体どんな話をしているのだろうか。


盗み聞きはよくない・・・が、好奇心に理性が勝てなかった。



「私は辞めた方がいいと思うよ。こっちに戻ってきて、のんびり余生を過ごす方が・・・ね?」



と、友奈の声。


余生・・・とは、どういうことなのか?


話し相手は岩船先生ってのが分かっている。


ということは・・・もしかして・・・。



「余生とか言わないでくれ。まだ決まったわけじゃないんだ」



と、これは岩船先生の言葉。



「でもさ、この状況を打開できると思う?」


「可能性は・・・ゼロじゃない」


「ポジティブなのは良いことよ。でもさ」


「わかってる! 分かってるんだ・・・」



声を荒げる岩船先生。


怒っているような彼女の姿は、初めて見た。


なんというか、びっくりだ。


この場にいてはいけないと思った俺は、とりあえず、バレないようにそっと立ち去った。


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