第137話「先生からお誘い」


終業式。夏休み前最後の登校であり、明日からは待ちに待った夏休みだ。



「村上、ちょっといいか?」



下校する生徒は、みな足取りが軽い。


俺もその一人だったが、下駄箱へ向かう廊下の途中で、岩船先生に声をかけられた。



「はい」


「こっちだ」



と、案内されたのはいつもの部室。



「なんですか?」


「村上、急で申し訳ないが、来週から予定あるか?」


「うーん・・・まぁないですけど」



蒼との約束が今週に存在しているが、来週は特に何もない。


だから、予定は空いている。



「じゃ、月曜日の9時に駅前に来い。旅行するぞ」



なんか、前にも聞いたことのあるセリフだ。


でも、旅行がしたいって話は前から聞いていたので、それの誘いなのだろう。



「いいですよ。また奢ってくださいね」


「仕方ないな」



気前が良いのも岩船先生のいいところ。


どこに行くのかは知らないが、タダというなら行くに決まっている。



「んで、もう一つだ」


「はい?」


「行くのか?」


「行くって・・・」


「1年前のこの時期、何が起きたか分かっているな?」



そう言われ、察する。


そう言えば、この時期だった。


7月に入って、もう少しで夏休みって感じの季節。



「この前、橋の下には行きました。花をたむけるために」


「そうか」


「なんというか、あっという間ですね」



平林綾香。彼女が亡くなって、気づけばもう1年。


長かったような気もするが、でも、あっという間という感覚が勝る。



「そのうち・・・にはなるが、お墓にも行きたいな」



岩船先生が、そう言葉を漏らす。



「そうですね。もう1年ぐらい行ってませんし」


「だな」



ちょっと暗い話にはなってしまったが、彼女のことは忘れてはいけない。


いま思い返してみても、辛い経験だ。



「また声かける」


「分かりました。んじゃ、これで帰らせてもらいますね」


「わかった。気をつけてな」


「はい」



そう言い、ちょっと軽いような、でも重たいような足で、帰路についた。



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