第136話「昼夜逆転は自然の摂理」


部活が終わり、これから下校しようという時だ。


いつもは、方向の違う匠馬が一人で、方向の同じな俺と蒼が二人で下校していた。


今日もいつも通りで、部室を二人で出る。



「そろそろ夏休みですね」



蒼がそんなことを言う。


物静かな彼女だが、こんな風に話しかけてくれることも多い。



「そうだな。なんか予定あるの?」


「ないです」


「そっか。なら暇になりそうだね」


「そうですね」



俺も夏休みの予定はない。


ここで遊びに誘うのが普通なのかもしれないが、俺にはあいにく、それだけの勇気と度胸が存在しない。


相手が例えば匠馬とかなら、まだいける気がする。


でも、蒼が相手だと話が変わってくる。


性別の壁って、俺には大きく見えるよ。



「三永瀬さんは、いつもどんな感じに過ごしてる?」


「夏休みですか?」


「うん」


「天体観測して、朝になったら寝ます」


「昼夜逆転してるじゃん」


「夏休みにしかできませんからね」


「まぁそうだよな」



俺も長期休みは昼夜逆転することが多い。


何と言うか、好きなタイミングで寝て、好きなタイミングで起きるって生活をしていると、なぜか昼夜逆転して落ち着くんだよな。


どうしてそうなってしまうのか、謎です。



「あの、もしも・・・なんですけど」



と、蒼が改まったような。いや、恥ずかしがっているような声で言う。



「なに?」


「えっと、もしも、迷惑でなければ・・・ですが」


「うん」


「夏休み、どこかに遊びに行きませんか?」



まさか向こうから誘ってくるとは思わなかった。


おどおどとした声で、もじもじとした態度で。


でも、そうなってしまうのはすごく分かる。


だからこそ、この誘いは断れない。



「全然いいよ」


「ほ、ほんとですか?」


「うん。俺も暇だったし」


「ありがとうございます」


「いやまぁ、そんな感謝されることもないと思うんだけど」


「そうですね、あはは」



何の予定もなかった夏休みに、一つだけ、ささやかな予定が追加された。


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