第129話「今日の彼女は上機嫌」


「あら、入部希望なのね」



嬉しそうな笑みを浮かべる夕凪先生。


そんな夕凪先生のことを見て、鼻を伸ばす暁匠馬。


よく分かんない奴が、平穏な天文部に入部してきてしまった。



「村上先輩って、暁先輩と仲良いんですか?」



それは、三永瀬蒼の口から出てきた言葉だ。


天文部が終わった帰り道。


5月になったばかりのこの季節には、ちょっと似つかない黄金色の空。


たまたま家の方向が同じ蒼とは、こうして一緒に帰っている。



「暁・・・一応同じクラスだけど」


「それだけなんですね」


「ま、まぁ・・・」



1年前の俺なら、ありえない光景だ。


それは、女子と・・・いや、他人とこうしてお喋りをして、下校しているという光景。


相手が蒼だからってのはあると思う。でも、抵抗なく人と会話ができるのも、この1年で成長したところだろう。



「先輩」


「ん?」


「今日、私いつもと髪型違うの気づきました?」


「あ、あぁ・・・まぁ」



一応気づいてはいた。


いつもはおさげの髪型だ。


何と言うか、普通におさげ。


でも今日は、左側にリボンで髪を結んでいる。


サイドテールってやつだろうか。



「ほんとに気づいてました? あはは」


「なんか、今日は妙にテンション高いな」


「そうですか?」


「良いことあったの?」


「そうですね。ちょっとだけ」


「どんなこと?」


「うーん。ナイショ」



いつもは大人しく、物静かな蒼。


どんな良いことがあったのかは知らないが、今日の彼女は上機嫌だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る