第118話「彼女はよく笑みを浮かべる」


「さて村上くん。自己紹介をするわね」



岩船先生が退室した天文部の部室には、新たに顧問となった夕凪先生と二人っきりだ。


この先生とは、今日が初めましての状態。


何と言うか、気まずい・・・。



「私の名前は夕凪奈琴。さっき岩船先生が言ってたと思うけど、社会科の先生よ」


「あ、村上友彦です」



ぎこちない声であいさつをする。


対して夕凪先生はおだやかでにこやかだ。


優しい笑みは、俺にとって不気味にしか映らない。



「村上くん。今日からよろしくね」


「あ、はい」


「天文部って、普段どんな活動をしているの?」



どんな活動・・・。


基本的には、部室で適当なことをして時間を潰す。


たまーにだが、岩船先生の誘いで天体観測をしたりする。


入学して最初の方は、天文学に関する勉強をしたりしていた。


岩船先生が、一応は部活だからと釘を刺していたからだ。


しかし、時が経つにつれてそれも段々とうやむやになっていって、現状は散々たる状態だ。



「えーっと・・・色々」


「色々って?」


「天体観測とか・・・」


「あー、天文部だもんね。でもそれって、夜じゃないと出来ないんじゃない?」


「あ、はい」


「普段の放課後とかは、どうしてるの?」


「えーっと・・・まぁ色々」


「えー? そうなんだ」



あははと、微笑する。


何かを察してくれたのか、それとも呆れているのか。


岩船先生の顔に泥を塗るわけにはいかないと思って、必死になにかそれっぽいことを考えてみたが・・・。


申し訳ない。俺みたいな無知な人間が頭を回しても、無知が露呈するだけだった。



「じゃ、いつも暇してるの?」


「あ、そういうわけでは・・・」


「何してるの?」


「いや・・・すみません。暇してます」


「あら・・・あはは」



この夕凪先生という人。


どうしてこうもよく笑うのだろうか。


どうしてこう、おっとりとして優しそうな表情をするのだろうか。


岩船先生とは性格が真逆すぎて、ちょっと戸惑う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る